1.はじめに

スライド2.JPG今、企業・病院・学校でコーチングがコミュニケーションの方法として注目されています。時代の変化と共に人間関係も希薄になりコミュニケーションの方法も新しい手法が求められています。介護問題は誰もが持つ重要課題です。今回のコーチングは、未来型サポートコミュニケーションという言い方ができるものです。介護支援専門員・地域包括センター・介護予防センター職員の業務の向上を図り、支援活動を行うコミュニケーションの方法として、これからコーチングを一緒に学んで行きましょう。

2.研修の目的

①コーチングの概要を学び今から未来に向かうコミュニケーションの方法を理解する。
②利用者やその家族へ働きかけるコーチング手法を取り入れて、対人個人援助技術から対人支援技術へスキルアップを図る。
③利用者の描いている生活、普段言えない本音やどんな生活をしていきたいと思っているのかを引き出すコーチングの方法を学ぶ。
④利用者本人が気づいていないニーズに気づく関わり方を学ぶ。

3.コーチングとは

 コーチングは学問として成立していません。そのため書籍によって異なった説明がなされています。これをいくつか挙げてみますと次のようなものがあります。

1)コーチングとは、個人の自己実現をサポートするシステムです。
「部下を伸ばすコーチング」榎本英剛

2)コーチングとは、人間の無限の可能性を信じ、一人ひとりの多様な持ち味と成長を認め、適材適所の業務・目標を任せる、持続的に発展する経営を実現するためのコミュニケーション・スキルです。  
「入門ビジネス・コーチング」本間正人

3)コーチングとは、ある人間が最大限の成績を上げる潜在能力を解放することです。それは、その人に教えるのではなく、その人が自ら学ぶのを支援することです。
「潜在能力を引き出すコーチングの技術」テイモシーガルウエイ

4)相手の自発的行動を促進させるためのコミュニケーションスキルです。
「コーチングが人を活かす」鈴木義幸

5)目標達成やパフォーマンス向上のために、対象者を勇気づけ、対象者のやる気を引き出し、目標達成に導くための心理的支援です。
「格闘するコーチング」日向薫

などコーチングの解釈は人の数だけあると言っても過言ではありません。
ただ共通しているのは、今から未来へ目標に向かってクライアントがどのように行動するかコミュニケーションを通して気づく点にあります。

スライド7.JPG今回の研修では、コーチングとは、「信頼関係(パートナーシップ)の基にクライアント(コーチングを受ける人)の本来持っている能力や可能性をコーチとクライアントが会話を通して気づき、クライアント自ら最大限に能力を発揮(自己実現)できるようにコーチがサポートする継続的コミュニケーションシステム」と位置づけます。

つまり、コーチングは、単なる雑談や会話がうまくなるものではなく「相手(クライアント)とのコミュニケーションの中で、相手(クライアント)が自分を発見し、自ら能力を引き出し、その人の思いが成果となるように聞き手(コーチ)が支援する継続的なコミュニケーションの方法だと言えます。

4.コーチングの語源

コーチと言う言葉は、ハンガリー北部のコークスという村で生まれました。この村では、伝統的に自家用四輪馬車が作られていました。この馬車をコーチと言います。19世紀に当時大学生の家庭教師がこの馬車に乗って子供たちの家に教えに行ったことから俗語として言われるようになりました。当時大学生の家庭教師が生徒の進歩を願い個人の特性に応じた実に行き届いた指導をしていました。そのため家庭教師の自家用馬車に乗せてもらい、目的地まで連れていってもらえるように感じたために、この名前が使われたと言われています。

5.コーチングの基本概念

コーチングの基本概念を簡単にいうと三つの言葉に集約されます。
① 自己実現:その人が本来持っている能力や可能性を最大限に発揮すること。
② サポート:サポートは協働的人間関係あるいは、支援的人間関係を基本に支え合う関係。
③ システム:コーチングは哲学・人間関係・技術の3つが組み合わさったシステムである。

6.サポートとヘルプの違い

スライド10.JPGコーチングにおいてサポートすると言う考え方は重要な視点です。サポートとは、通常、「助ける」とか「手伝う」を意味する英語です。この言葉は、最近では、日常的に使われるようになってきました。コーチングとは何かを説明する上で、欠くことのできない重要な意味が含まれています。それを説明するために、ここでサポートとよく似た意味を持つ言葉、「ヘルプ」と比較して説明をします。「ヘルプ」は、辞書を引くとサポートと同じく、「助ける」とか「手伝う」と言う意味です。サポートとヘルプ。日本語にしてしまうと、ほとんど同じような意味になってしまいますが、この二つの言葉には大きな違いがあります。二つの例で考えてみましょう。

一つ目の例は、ある人が道路を歩いていて、大きな穴に落ちたとします。どうやっても自力で穴の外に出ることがきません。しかたがなく大きな声で助けを呼びました。幸い、通りがかりの人が穴の上から手を差しのべて引っ張り上げてくれました。このケースは、サポートでしょうか?ヘルプでしょうか?

二つ目の例は、ある人が屋根に登り降りようとしましたが、はしごの置いた足場が悪かったので、はしごがグラグラしていました。そのまま降りても降りられないことはないと思いましたが、より安全を考え、通りかかりの人に、はしごを支えてもらい下に降りました。これは、サポートでしょうか?ヘルプでしょうか?

コーチングの考え方で言うなら一例目がヘルプで、二例目がサポートです。どちらの状況も通りかかりの人に助けを求めています。しかし、「「助けを求めた人の状況」と「助けにやってきた人」との関係が根本的に異なります。

一例目では、「助けを求めた人」は、自力ではどうすることもできない状況であり「助けを求めた人」にとっては「無力」状態です。ですから「助けを求めた人」には力がありません。この状態では「助けにやってきた人」は、「いなくてはならない存在」です。また、助かるためには、「助けにやってきた人」の指示や命令を聞かなければなりません。

二例目の場合、「助けを求めた人」が自力で降りられないと言うことではありませんが、安全を考えて、はしごを支えてもらったケースです。ですから、「助けを求める人」には自力で降りる力はあります。すなわち「有力」状態です。

これをまとめると、ヘルプには、「助けを求めた人」に力がなく「助けにやってきた人」に引き上げて「もらう」状態です。これに対して、サポートは、自力でもできるが、支える人がいることで、もっと力が出る状態になることを言います。「介護施設には、サポーターはいませんが、ヘルパーがいます。サッカー場には、ヘルパーはいませんが、サポーターがいます。」このように助けられる人と「助ける人」の置かれた状況と「助ける人」との関係が異なることが分かります。

コーチングでは、「無力」のクライアントを上から引き上げると言ったヘルプの関係ではなく、もともと力があるクライアントを下から支え、その人の持っている能力や可能性をさらに発揮できるように支援するサポート関係がコーチングのコーチとクライアントの関係なのです。

7.コーチングの三つの哲学

1)人は無限の可能性を持っている

スライド11.JPGこの考え方は、コーチングの人間観に基づいています。あなたは、人をどのようにとらえていますか。二つの考え方を提示します。

一つ目は、「人は基本的に怠惰でありアメやムチによってコントロールしない限り動かない」という考え方です。二つ目は「人は基本的に勤勉であり、条件や環境さえ整えば回りから特に言われなくても自発的に動く」という考え方です。あなたは、どちらを支持しますか。

この考え方は、経営学者マグレガーが提唱した経営理論やマネジメント理論の中にX理論・Y理論として出ています。マクレガーによれば、ほとんど一つ目の考え(X理論)に基づいていると主張しました。「人はアメとムチでコントロールしないと動かない」という操作主義的な考え方に基づいて従来の経営やマネジメントは行われてきたというわけです。これは、人間を本当に信用してこなかったことの表れと見ることができます。コーチングでは人間を性善説的な二つ目の考え(Y理論)に立って見ています。

2)人が必要とする答えは、すべてその人の中にある

スライド12.JPGこれは、「その人が持っている本来の能力や可能性を最大限に発揮するにはどうしたらいいか」という問いに対する答えをさします。ただ、問題は「答えはその人の中にある」といってもその答えを本人が「知っているか」というと必ずしもそうではありません。多くの場合、すぐ答えはその人の中に「眠っている」といってよいでしょう。なぜ「眠っているのか」といえば、それは多くの人が「答えは自分の中にある」ということを信じていないからです。これは、多くの人に言えることではないでしょうか。

現代社会に生きるほとんどの人が、自分の中に自分の必要とする答えがあるとは信じていないように思います。これまで私たちは、家庭でも、学校でも、会社・介護施設に入ってからでも答えは、上の人たち、つまり親や先生や上司・指導者といった立場にある人たちが持っていると常に教えられてきました。そして、私たちはいつの間にか自分たちの中にある答えに封印をしてきたのです。

このように自分の中には答えがないと信じているからこそ多くの人たちは、親や先生や上司・指導者など「上」の人たちの指示通りに動き、その反動でただやみくもに反発するなど、周りの人たちと同じような行動しかとれなくなっています。「答えはだれか他の人たちが持っている」と信じていればその人の考え方や動き方は、どうしても依存的になります。また逆に「答えは自分の中にある」と信じていれば「自ら考え、自ら動く」という自発的な考え方や行動になるでしょう。

3)必要な答えを見つけるために、パートナーが必要である

スライド13.JPG人間の意識は、通常、外を向いています。それは外から入ってくるさまざまな刺激を受け止めながら、それに対して自分はどう反応すべきかを無意識のうちに判断しようとしているからです。いわば「アンテナ」のような働きをしているわけです。この働きがなければ、私たちはこの複雑な世の中で正常な生活を営むことはできないでしょう。

もう少し詳しく言うと、人間の意識は、自分が気づいている部分の顕在意識と普段認識していない部分、つまり「自分が気づいていない自分」の潜在意識とがあります。「すべての答えはその人の中にある」という場合、答えの多くは顕在意識ではなくその人自身が気づいていない潜在意識の中にあります。つまり私たちは自分自身の意識を自分自身で見ようとしても部分的にしか見ることができないのです。

自分自身を直接見た人はいません。他人は、目が不自由でない限り見ることができます。自分の中の潜在意識を見るためには、鏡が必要です。この意識を映す鏡にあたるものが質問です。パートナーに質問されることによって意識が内側に向き、自分の中にある答えを見つけることができるのです。答えが見つかり行動が自発的であればこそ極めて高い職務向上、目標達成、人間成長、創造性発揮のチャンスがあります。

8.コーチングの三原則

1)コーチングは双方向のコミュニケーション

人と会話を交わしていて、いいアイディアが出やすいときがあります。また「行動」を起こしやすく、問題解決がスムーズになることも振り返ってみるとよくあります。そして、その時のコミュニケーションは、一貫して双方向のコミュニケーションであることに気づきます。一方通行のコミュニケーションにならないように注意し、どちらかといえば人の話は、良く聞きましょう。またコミュニケーションを交わすときには、「対等」で「平等」な立場を築きましょう。「一方通行ではなく、双方向でアイディアを出し合い、検討し、行動に移す。そのためのアイディアも双方向のコミュニケーションから生み出されます。このプロセスを「コーチング」といいます。

2)コーチングは、現在進行形のコミュニケーション

コーチは、現在進行形で関わります。コーチングの会話は、緊張したり感動的な会話だけではありません。お互いリラックスし、構えることなく話せるようにすることは重要なポイントです。また、コーチング・コミュニケーションを交わしていて、結論を急がないことは大切なポイントです。
また、コーチは教えることに重点をおきません。むしろクライアントが自分で考え、自分から行動が起こせるようなコミュニケーションを進めてゆきます。

3)コーチングは、話し手に即したコミュニケーション

人はそれぞれ個性を持っています。誰に対してもうまく行くコミュニケーションの方法はありません。コーチングは一人ひとり個別対応をするコミュニケーションの方法です。コーチは、1対1のコミュニケーションを通して、クライアントが自分で考え、自分から行動を起こし、自分で評価できる能力を自ら引き出せる関わり方をします。

9.介護支援専門員におけるコーチングの必要性

①知識・技術・環境の変化が早くなったので
指導者が細かい知識や技術を教えることが困難になった。
②仕事をする上で状況に応じた対応が求められている。
③人間は教えられたからと言って、すぐ変わらない。
(自分で決めたことは自ら積極的に行動する傾向を人間は持っている。)

10.介護支援専門員の活動におけるコーチングの可能性

 介護支援専門員においてコーチングはどんな効果が期待できるのでしょうか。いくつか挙げてみます。

・具体的な行動によって成果、結果が出る。
・自ら動く介護支援専門員の育成ができる。
・自己理解・自己信頼感が高まる。
・相互に尊重しあう人間関係ができる。
・肯定的な意見が多くなり実現可能な行動が増える。
・他者との協力関係が構築しやすい。
・目標が明確なので気持ちに余裕ができる。
・コミュニケーションにおいて、質問力があがる。
など、多くの可能性を秘めています。

11.コーチング・フロー(コーチングの流れ)

コーチング・コミュニケーションの流れのことを指します。つまり、コーチング・フローに基づいた会話がコーチング・カンバセーションということになります。
コーチング・フローは、コーチングのビゲーターの役割をします。 コーチング・フローの中で、コーチはクライアントとコミュニケーションを交わしながら、現在の位置とこれからどこに向かう方向を確認することができます。また、コーチにとってコーチング・フローはクライアントが目標に向けて行動を起こしていくためのコミュニケーションをつくり出す基礎となります。

コーチング・フロー(流れ)
コーチング・フローは基本的に次の6つのステップから成り立ちます。
STEP1: ウォーミング・アップ
STEP2: 目標設定
STEP3: 現状把握
STEP4: 目標と現状のギャップの分析と明確化
STEP5: 行動の決定
STEP6: フォローアップとふりかえり

STEP1:ウォーミング・アップ

スライド18.JPG話しやすい環境づくり
人と人が向かい合うと、そこには防衛が働きます。これは、知っている人同士でも働く本能的なものなので、知らない人同士の場合はなおさらです。 クライアントと初めて言葉を交わすときには、表情、姿勢、声のトーン、話し方などに気を配る必要があります。また、相手が話をしやすいよう、適切なタイミングで相槌を打つことも大切です。

クライアントとの間に信頼関係を築く
コーチとクライアントの間に信頼関係が築かれていないとクライアントがコーチングから得る成果はあまり期待できません。相互に心を開いて話をしようとする姿勢が信頼関係を築くための第一歩です。

STEP2:目標設定

スライド19.JPGコーチングには、目標が必要です。目標は、一定の努力を傾けて到達すべき終着点です。終着点や到達点とは、努力して到達すべきところです。
1つ注意しなければならないことは、終着点や到達点は明確に限定されたものでなければならないことです。実際に傾けられた努力の量がどの程度か、努力の質はどのようなものかは、本人がどのような人間であるか、その目標がその人にとってどの程度重要であるかによって変わってきます。

目標を定めるにあたって
SMARTの法則という目標を設定する目安になる法則があります。

▲SMARTの法則
1)Specific「具体的であること」
 目標はできるだけ具体的で目に見えるようにしておく必要があります。コーチもクライアントそして周りの人も共通して分かると、目標の方向性と実現が分かりやすくなります。

2)Measrale「計測可能」
目標は、測れるものである必要があります。数値化することで目標は明確化します。

3)Achievable「達成可能」
目標は、達成可能でなければ目標になりません。目標が達成可能だと思うから人は意欲を持って行動します。目標設定時に達成可能なものにすることで一層意欲的に目標に向かって人は歩んで行きます。

4)Realistic「現実的」
目標は現実的でなければ望みがありません。目標が現実的であればチャレンジする意欲も湧いてきます。

5)Time phased「時間(期限)の設定」
目標は一定の時間内で到達しなければなりません。
「目標とは一定の時間内に到達すべき測定可能な一定の成果です。」

STEP3:現状の明確化

現状に対する正確な認識があってその間にあるギャップが明確になります。目標に対して、現状では足りないもの、目標を達成するために必要なスキルやリソース、目標を達成するまでのプロセスで生じると考えられる障害、そしてその障害を乗り越える方法、これらが明確になればなるほど、クライアントの中に自然と行動が見えてきます。
現状の明確化の質問には、次のようなものがあります。

「現状をもっと詳しく教えてください」
「理想を100%とすれば、今は何%の地点にいますか」
「行動起こす上で今障害になっていることはどんなことがありますか」

ステップ4:目標と現状のギャップ分析

スライド23.JPGコーチングの目的はクライアントが行動を起こすことです。ところが、頭で理解したことと、行動の間には大きなギャップがあります。理解したからといって必ず行動に移せるとは、限りません。では、どのようにすれば行動を起こせるのでしょうか?

コーチング・フローでは「現状の把握」をしたあと、目標と現状の間にあるギャップを分析と明確化をします。 ここでコーチは、クライアントが自分にマッチした行動を自分で見つけられるようにサポートします。そのために、クライアントは、「自分の目標は何か」を再度確認し、「実際に行っていることは何か」、「何が問題となっているのか」について、はっきりさせることが必要です。目標と現状のギャップに焦点を当てる質問には次のようなものがあります。

「やめようと思っても、なかなか辞められないものは何ですか?」
「目標に至るまでのこれは必要と思うものは何ですか?」
「自分の中ではっきりしていないことは何ですか?」
「行動を起こした方がいいのに、まだしていないこことは何ですか?」
「目標・現状の把握・ギャップの明確化」

これらどれか1つでもはっきりしないままにして、行動だけを変えようとしても、なかなかうまくいきません。コーチング・フローの中で、「目標をはっきりとイメージできるか」ということと、「どの程度現状を把握できているのか」の二つのことが、「ギャップの認識」と「行動」に大きく影響をおよぼします。

STEP5:行動の決定

目標と現状とのギャップが明確になるとギャップを埋めるために必要な行動がはっきりします。現状を明確にする過程が大事なのは、クライアントが、「自分は、今何をすることが大切なのか」を認識することです。
クライアントが目標達成に向けて行動を起こすとき、行動のアイディアを決定するだけではなく、アイディアを行動化できるようにすることです。そのためにもコーチはクライアントが自分のアイディアを自ら引き出し、行動を起こせるようサポートします。どのような行動をするのか、それを決定する質問には次のようなものがあります。

「今もっている行動計画はどんなものですか?」
「いつ、どこで、誰とどのようにしてしますか?」
「今すぐ行動に起こせることは何ですか?」
「あなたが知りたいことを知るために何ならできますか?」

目標とのギャップを埋めるために「どんな行動を起こせるか」、を知ることが、行動に結びつく大きな要因です。

STEP6:フォローアップとふりかえり

目標に向かう過程がスムーズに行かず、目標達成が困難になることがあります。また、クライアントが、コーチングで発言したとおりに行動をするかは、状況に直面してみなければ分からないときもあります。 クライアントが実際に行動を起こすには、コーチのフォアローアップが重要です。コーチングの目的は、クライアントが実際に行動を起こすことです。確実に行動を起こし、目標達成までは、「フォローアップとふりかえり」が必要です。
 フォローアップとふりかえりをする時に大事な要素として下記の四点があげられます。

(1)実際に行動してみてどうだったか
(2)現状を把握しているか
(3)目標と現状とのギャップは何があるか
(4)今行動をしていることは何か
(5)これからどんな行動を起こして行くか

を明らかにします。そして、今問題となっていることに焦点をあてて、コーチングをします。そこでは行動計画を修正し、行動を起こせるアイデイア出して、再度行動してみます。実際に行動を起こしてからのコーチングは、フォローアップとふりかえりの繰り返しをします。フォローアップを確かなものにするには、質問や提案を用意することが大切です。下記はふりかえりとフォローアップをするのに機能的な質問です。

<ふりかえりの質問>
「ここまでしてきて、できたことはどんなことですか」
「今、課題になっていることはどんなことですか」
「行動をしてみて、どうだったかを教えてください」

<フォローアップの質問>
「今まで離したことは、来週またはなしをしましょうね」
「このことは、成果を確認できるまで、サポートします」
「今大切な時なので目標の障害になることがあったら、いつでも言ってください」
「目標を達成するために、私にできるサポート何かありませんか」

フォローアップやふりかえりは、クライアントの行動を促進し、確実にする要素です。その行動内容を成果として認めるためにも、フォローアップやふりかえりはコーチングのプロセスの中で大切な要素です。

12.コーチングの限界

 利用者の自己決定権を保障するうえでも、利用者のやる気を引き出す上でも、コーチングは優れたアプローチだと思います。また、利用者に対してだけではなく、管理職がスタッフにアプローチする時にも、コーチングは効果的なコミュニケーションの方法です。
管理職が指示・命令ばかり出していると、やる気のない無責任な指示待ちのスタッフになる可能性もあります。また利用者もこちらの指示ばかりで動いていると依存的になり、自分で考え行動することが少なくなっていきます。

コーチングは相手の主体性や可能性にアプローチするコミュニケーションの方法です。開いた質問を多く使い相手が自ら抱えている問題や目標に理性的で現実に即した思考や行動が取れることが大前提です。したがって、病気のために、思考能力が崩壊している相手にはコーチングではなくセラピー(治療)が必要です。また、心理的な原因で思考能力が低下している相手もコーチングではなく心理カウンセリングが求められます。

13.コーチングの基本スキル

1)傾聴

スライド27.JPG①相手の言葉はさえぎらず相手の話をじっくり聴く。
②先入観を持たずに頭を空にして聴く。
③相手の話に興味関心を持って聞き、相手の言いたいことを的確にとらえる。
④人の話は、相手の物差しで聴く。

物差しとはその人の「都合のいい考え方やもの見方」をさします。例えば、介護支援専門員が自分の物差しでヘルパーさんの話を聞くと、ヘルパーさんの言うことがどれだけ自分の物差しに適しているかどうかに、視点がいってしまいます。
支援専門員がヘルパーさんのために話を聞いていたのが自分の都合の良い方向誘導するように話を聞いてしまうことがあります。自分の物差しで聞くことなく、相手の話を理解するように聴きましょう。

2)質問の方法

コーチ(聞き手)は、適切な問いかけによって相手の中にある答えを引き出します。

①閉じた質問と開いた質問
スライド28.JPGスライド29.JPG
閉じた質問とは、YES,NOで答えることのできる質問です。
例:「明日、出勤ですか?」「明日残って仕事をする予定はありますか?」
これは、確認する時に有効な質問方法ですが、それ以外のときに多く使われると何か疑われている感じや、責められている感じがして相手に不快感を与える可能性があるので注意する必要があります。
開いた質問は、5W1Hを用いて質問です。名が示す通り、さまざまな内容の答えが返ってくる質問方法です。
例:「明日支援センターに行ってどんな仕事をするのですか?」
「今日の夕飯は何を食べましょうか」
質問は、開いた質問を多く使い、確認をする時に閉じた質問を使うと有効です。

②特定質問と拡大質問
スライド30.JPGスライド31.JPG特定質問は、それほど考えなくて答えられる質問です。また答えが一つしかない質問もこれに当たります。
例:「ケアマネになって何年ですか?」「どこの出身ですか?」
「日本の首相は誰ですか?」 「今日は何曜日ですか?」
拡大質問は、聞かれた人がすぐには答えられない質問や答えが複数ある質問です。
例:「あなたは、将来どんなことをしたいのですか?」「あなたが人生で大事にしていることは何ですか?」拡大質問の「拡大」とは、相手の可能性を拡大する意味を含んでいます。

③未来質問と過去質問
スライド32.JPGスライド33.JPG過去質問は、過去形の言葉が多く含んだ質問です。
例:「これまでどうだったのか?」「どうして、それまでしなかったのですか?」
未来質問は未来形を多く含んだ質問です。
例:「これからどうしたいのですか?」「それをするにはどんな方法がありますか?」
質問は相手の可能性を引き出すためのものです。可能性は、現在から未来に向かって存在するものです。ですから質問は、相手の意識が今から未来に向かう質問をし、自分の可能性をイメージできる質問を多くするように心がけることが大切です。

④肯定質問と否定質問

スライド34.JPGスライド35.JPG否定質問は、問いの中に「ない」と言う否定形が入っている質問です。
例:「どうしてうまくいかないのですか?」「何がはっきりしないのですか?」
何か窮屈で暗い感じがします。
肯定質問は、否定形の含まない、相手や物事を認める質問です。
例:「どのようにするとうまく行きますか?」
「はっきりしていることは、どんなことですか?」
肯定質問には、明るく拡がりがあります。質問の投げかけによって、質問される側の意識に大きな影響を与えます。心が開放的に向かうか、閉鎖的になるかは質問で左右されることが多くあります。

3)承認
スライド36.JPG人に認められることは嬉しいことです。コーチングでは、事実に基づいて認めることを承認といいます。例えば、「体の不自由さを乗り越えて最後までやりとおしたね。ケアマネジャーとして私は、○○さんが、かんばっている姿を見て私も負けずに頑張ろうと思いましたよ。○○さんのケアマネジャーでいられることを嬉しく思います。」と相手に現れている成果や変化(事実)を伝え自分への影響と自分の気持ちを伝えます。承認は賞賛する(誉める)より一歩進んだ形です。

承認=事実+自分(私達)への影響+自分(私達)の気持ち

◎承認の留意点
①取って付けたような承認はしないこと
②結果を目的にして承認しないこと
③承認の内容は具体的であること

14. 終わりに

 コーチングは奥の深いコミュニケーションの方法です。コーチングのスキルだけでも100種類以上あります。今日は、その一部をご紹介しました。
コーチングの考え方を頭に入れて、人とのコミュニケーションを実践してみてください。きっと何か今までと違ったコミュニケーションが生まれてくることでしょう。コミュニケーションの方法を一つ変えることだけで人間関係は変化します。人からのひとつの質問で気づくことも多々あります。

また、コミュニケーションの方法が変わるだけでストレスの軽減にもなります。コミュニケーションは、実践して気づくものです。
今日コーチングの研修で学んだことを是非活用していただき、成果を上げていただけたら幸いです。


別紙 「ケアマネージャーの私」シートを参考に質問してみよう。
1)今、ケアマネージャーとしてやってみたことはどんなことですか?
(目標に対する質問)

2)その目標が達成できた時、どんなケアマネージャーになっていると自分を想像できますか?(目標)

3)目標達成を100%と考えると、今は何%の地点にいますか?(現実に対する質問)

4)現在の状況を簡単に聞かせてください。(現実)

5)あなたをサポートしてくれる人はいますか?(資源)目標達成に使えるもの(人・お金・時間・もの・情報)

6)どんな情報が必要ですか?(資源)

7)目標を達成するためにこれから取れる具体的な行動は何ですか?(行動選択)

8)他にどんなことが考えられますか?(行動選択)

9)いつから始めますか?(意志確認をする質問) 
10)成功の確率は何%ありますか?(意志)